ドイツには、商品を選ぶときにとても頼りになる雑誌があります。
その名も ÖKO-TEST(エコテスト)。
スーパーやドラッグストアにずらりと並ぶ商品の前で、「これ、ÖKO-TESTで“Sehr gut(とても良い)”のやつだ!」と手に取る人をよく見かけます。雑誌の評価をもとにしたこのÖKO-TESTマークは、今や多くの人に信頼され、日常にすっかり根づいている存在です。
でも、この雑誌にはちょっとした秘密があります――ただ商品を評価するだけでなく、その評価の厳しさが企業の改善努力を促し、業界の基準を底上げし、時には法律や規制にも影響を与える力を持っているのです。
私自身、販売している食品やボディーケア用品などに関する記事があるときは、できるだけÖkotestをチェックしています。評価の結果を見るだけでなく、どんな基準で選べばよいのか、どの成分に注意すべきか、どのように使うのが安心なのかといったことがわかるからです。
こうして得たことは、自分のお店のラインナップを考えるときにも役立ちますし、「これ知っておくといいな」と思うことはブログでもシェアしています。
Ökotest(エコテスト)とは?

Ökotestは、1985年にドイツで創刊された消費者向けの商品評価雑誌です。
運営しているのは ÖKO-TEST Verlag GmbH という独立系の出版社で、ドイツの消費者保護を目的として活動しています。
食品、化粧品、医薬品、玩具、日用品、保険など、生活に関わるあらゆるジャンルの商品を取り上げ、品質や安全性、環境への影響などを科学的な検査と専門家の分析に基づいて評価します。
評価は5段階(「Sehr gut(とても良い)」~「ungenügend(非常に悪い)」)で表示され、詳しい評価結果は雑誌やeペーパー(有料記事)で読むことができます。
どんなふうにテストしているの?
たとえば、私のオンラインショップで取り扱っている食品・化粧品・家庭用品・子ども用品・玩具など幅広い分野で、Ökotestは次のような観点からチェックします:
- 有害物質の有無
製品に含まれる化学物質を調べ、有害なものが含まれていないか分析します。 - 環境への影響
製造や廃棄のときに環境にどんな影響があるかを評価します。 - 機能性・有効性
医薬品や栄養補助食品、医療機器については、使ったときに期待される効果が科学的に証明されているか、十分でない場合はそのことも説明があります。 - 原材料の調達のしかた
原料がどこから来ているか、倫理的・持続可能かも重視します。 - パッケージ情報の充実度
成分や使用方法、原材料の由来など、消費者に必要な情報が不足している場合は減点されます。
テストする製品は、お店で匿名で購入されます。メーカーから提供された特別なサンプルではなく、ふつうに売られているものが対象です。
Ökotest自身は検査ラボを持っておらず、ドイツ各地の独立した試験機関に依頼して分析を行います。
評価基準や減点理由も記事にきちんと書かれています。
どうやって「独立性」を保っているの?
Ökotestは「企業や政治、広告主から独立している」と公式サイトでも宣言しています。
そのために、こんな工夫をしています:
- 匿名で市場から製品を購入
- 独立した試験機関に外注して検査
- テスト結果は企業に事前に知らせず、発表後に通知
- 基準や評価方法を公開
- 編集部と広告・ラベル事業部を別会社に分け、広告主や企業の圧力が編集内容に影響しないようにしている
ほかの特徴
- 消費者教育
どの成分がなぜ問題か、どんな表示を見ればいいか…など、製品を選ぶときのポイントも紹介。 - 定期的な再テスト
同じ製品でも数年後に再テストされ、品質の改善も追える。
実際、粉ミルクやフィンガーペイント絵の具などは、初回のテストでほぼ全ての商品が厳しい評価でしたが、数年後には大幅に改善して多くの商品が「Gut(良い)」や「Sehr gut(とても良い)」の評価を受けるようになっています。
Ökotestは次のように述べています:
In 40 Jahren haben wir viel erreicht. Unzählige Hersteller haben ihre Produkte nach unseren Tests verbessert. … wir testen, damit Sie richtig gut leben können.
(40年間で多くのことを成し遂げました。数え切れないほど多くのメーカーが、私たちのテスト後に商品を改善しました。…私たちは、皆さんがよりよい暮らしを送れるようにテストしています)
Ökotestに対する主な批判
Ökotestは長年ドイツで信頼されている雑誌ですが、もちろん批判もあります。代表的なものを、わかりやすくまとめてみます。
- 独自基準が法律基準より厳しすぎる
Ökotestは、法律で許されている範囲でも独自に厳しい基準を設けることがあります。たとえばミネラルウォーターでは、EUの基準では問題ない水でも、Ökotest独自の評価で「不十分」とされたことがあり、水業界から「法的に問題ないのに悪印象を与える」と批判されました。 - 評価の仕組みが少しわかりにくい
製品の有害物質や環境への影響、機能性などを点数化して評価しますが、どの項目が全体評価にどのくらい影響するのかは、外からは分かりにくいことがあります。そのため、なぜ低評価になったのか、すぐには理解できない場合があります。 - 広告で誤解を招くことがある
たとえばActimel(ヨーグルト飲料)が「Ökotestで“gut(良い)”評価」を広告に使った際、「健康効果が保証された」と誤解されるおそれがありました。実際には、Ökotestは乳酸菌の含有量や製造工程の安全性、保存料の少なさなどの観点から評価して「gut」と判定しており、健康効果そのものを保証したわけではありません。 - 評価マークの使用料が収入源になる点への懸念
高評価を得た製品は、メーカーが有料でÖkotestのマークをパッケージに表示できます。このため、「収益構造が評価の独立性に影響するのでは」と懸念されることもあります。
ただし、実際には評価自体はマーク購入とは無関係で、テスト後にすでに決まっています。
それでも…Ökotestが大切にされる理由
こうした批判はありますが、この「厳しさ」こそが、業界全体の質を引き上げてきました。
- 企業の改善努力を促す
Ökotestが有害成分や環境負荷を問題視して公表することで、多くの企業が配合成分を見直し、有害物質を排除するようになった。- 例:過去に日焼け止めから問題成分(ホルモン様作用物質など)が検出された後、企業が成分を変更し、再テストで評価が向上した。
- 業界全体の基準引き上げ
オーガニック食品や自然派化粧品の分野では、Ökotestでの低評価を避けるため、製造段階での残留農薬・香料・保存料などを最小限にする流れが広がった。 - 政策や規制への間接的影響
繰り返し問題提起された成分(例:アニリン・フタル酸エステル(可塑剤)・ミネラルオイルなど)は、EUやドイツ国内で規制強化が検討・実施された例もある。
まとめ:Ökotestの影響
つまり――
Ökotestは「厳しすぎる」と言われることもありますが、その厳しさこそが、メーカーの品質改善努力や業界全体の基準向上を促し、時には法律や規制にも影響を与えています。その結果、安心で環境にやさしい商品が増え、私たちの暮らしをより良くしてくれているのですね。


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